獣害対策から見る地方創生の新たなカタチと未来の地域経営

獣害対策から見る地方創生の新たなカタチ

近年、シカやイノシシ、クマなどの獣害は全国で深刻な問題となっています。これが引き起こす農作物や人への被害はもちろん、地域コミュニティの疲弊や担い手不足、耕作放棄地の増加にまで影響を及ぼし、地方の構造的課題を浮き彫りにしています。こうした現状を変えるために、特に注目すべき取り組みが登場しました。地域経営を新たな方向に導く、獣害対策を起点とした「統合型生態系管理システム」の構築です。

この取り組みは、岡山県の株式会社エーゼログループが中心となり、新潟県長岡市の株式会社うぃるこ、東京都渋谷区の株式会社フジワラテッペイアーキテクツラボと連携し、全国の自治体向けにスタートしたものです。獣害をコストとして捉えるのではなく、地域振興や社会の持続可能性の一環として位置づけることで、新しい時代の地方創生を目指します。

獣害対策の現状と課題

まず、獣害の深刻さは明らかです。数値的にも、シカによる農作物被害は年間160億円を超え、加えてクマの人身被害も増加の一途をたどっています。この背景には、過疎化や高齢化が進む地域コミュニティの衰退と、それに伴う獣害対策の担い手不足が影響しています。また、省庁ごとの施策の分断や予算の縦割りが、多くの自治体の対策を困難にしています。

自然資本を活かした持続可能な地域経営

この新しい取り組みは大きく三つの柱で構成されています。まず一つ目は、データを活用し、野生動物の生息状況を把握するための密度管理。長岡技術科学大学の専門チームがRAI（撮影頻度指数）を用いて、科学的なデータに基づく密度把握の方法を導入します。これにより、適切な生息数の把握が可能となり、政策判断を行うための強力なサポートを提供します。

続いて、二つ目は獣害専門人材の発掘・育成です。地域の教育機関と連携し、地元で活動できる専門的な人材を育て、持続的な対策を支える体制を築きます。この人材育成は、対応力を高めるだけでなく、地域に新しいビジネス機会を生むことも目的としています。

最後に、三つ目は空間デザインによる「共存圏」の再構築です。フジワラテッペイアーキテクツラボが手掛ける統合型マスタープランで、農地や宅地、森林などの土地利用計画を見直し、地域の特性に合わせた理想的な環境を整備します。これにより、観光や教育にもつながり、活気ある里山の未来を実現します。

未来の地域づくりに向けて

この取り組みを通じて、私たちは獣害対策を単なる対症療法から脱却させ、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた新たな地域経営モデルを創出したいと考えています。獣害を「悪」と見なすのではなく、それを地域振興の機会ととらえ、野生動物との共存を目指す仕組みが求められています。

このプロジェクトによって、獣害対策はただのコストではなく地域資源に換えることが可能であり、地方創生の重要なテーマとして位置づけられることが期待されます。将来的には、「生態系管理」という新たな職業の創出にもつながり、地域の持続可能な未来を形作る一助となるでしょう。